海を走る氷の馬

この世の楽しそうなこと全て体験しないと気が済まない

赤ちゃんが卒乳した

長きに渡った赤ちゃんに授乳する生活が2月4日をもって終わりました。1年2ヶ月22日の間、1日も欠かすことなく母乳を出し続けた私のおっぱいたちよ、よく頑張った。この前ノーブラで服着てたら乳首がびっくりするくらい下にあって思わず「乳首 低ッ!!!」って叫んじゃったもんね。垂れたっていうかとにかく低かった。自分の思い出の乳首の位置から外10cm下10cmは移動したね。

産む前は「母乳にこだわるつもりはないし、出なかったらミルクで全然オッケー!」と思っていたんだけど、私の場合は「めちゃ出てるのに乳首が短くて赤ちゃんがうまく吸えない」という出産前に想定していなかったパターンだった。出なくて苦労するのは想像ついてたけど、出てても困ることあるんだ。赤ちゃんは吸えないんだけどどんどん作られるからおっぱいがパンパンに張っちゃって、もう食べる人のいないわんこ蕎麦。もう麺茹でるのやめて!!仕方がないから自分で母乳を絞らなきゃいけなくて、電動でシュコシュコおっぱい絞る機械を付けては乳牛の気分になっていました。産後入院中にTwitterでなんかエロ同人漫画の搾精病棟とかいう作品が話題になっていたのを見て、(こちとらガチで搾乳病棟なんだが……)と思ったことを無駄によく覚えています。

出産した病院は母乳育児推奨だということは聞いてたけど、別に何かコツを教えてくれるわけでもなく精神論で頑張ってって言われるだけだったし、小児科の方は「じゃあ1回につきミルク80cc足して」で終わった。退院後は途方に暮れて桶谷式に行ったり母乳外来に行ったり、もう寝ても覚めてもおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい。挙句赤ちゃんの体重の増えず新生児黄疸が治らなくて3回も入院して、まぁ割と気が狂っていた。こんな文化があるのはどうも日本だけらしいんだけど、産後のおっぱいをプロの手でこねくり回しておっぱいの出を良くする母乳マッサージというものがあり、乳腺が詰まりそうになるたびに駆け込んでいた。乳首も揉みまくられるけど性的には一切気持ち良くはないのが不思議だった。(ちなみに赤ちゃんにおっぱい吸われてても気持ち良くはならない。本当に別物という感じ)銭湯といい母乳マッサージといい、日本人って普段は人間同士の距離が離れてるのに局所的に開けっ広げなのが面白いなと思う。

乳首は伸びるとは聞いていたものの一朝一夕の話ではなく、1ヶ月半は直接授乳するのはうまくできなくて乳頭保護器というシリコンの乳首を補助するアイテムみたいなやつを使っていた。一応まずは直接飲ませる練習→保護器付けて授乳→疲れて飲めなくなったところで搾乳しておいた母乳を哺乳瓶で飲ませる→赤ちゃんをゲップさせて寝かせる→おっぱいを搾乳する→搾乳機と保存用器と哺乳瓶を洗浄消毒→あと1時間でまた次の授乳!!!みたいな日々で、睡眠不足が脳を直撃して本当に何も考えられなかった。睡眠不足だとご飯を食べる気力もなくなるということを知った。

やっと落ち着いたのは藁にもすがる思いで自宅に訪問してくれる出張助産師さんを頼んだときだった。この助産師さんがまぁ頼れるかつ癒しのオーラを放っている方で、授乳の姿勢を見てくれたり優しく話を聞いてくれたりして、「大丈夫よ何も心配しなくて。この子はそのうち必ず飲めるようになるから大丈夫」ととにかく太鼓判を押してくれた。この時期は友達にも愚痴りまくりで「完ミ(完全にミルクのみで育てること)でも心配いらないよ!」という方面の励ましはたくさんもらってたんだけど、「絶対飲めるから大丈夫」って言われたのは初めてだったから安心してわぁわぁ泣いてしまった。「保護器ももうすぐ外せるようになるわ」と言ってくれた通り、その数週間後に赤ちゃんがはむっとおっぱいを捕らえてごくごく飲み出した時の感動は忘れられない。保護器なしでうまく行く授乳が1回増え、2回増え、2ヶ月を迎える頃には保護器の出番は無くなっていた。「もう全然保護器外せない……もういいよ卒乳まで使おうね……」と赤ちゃんに語りかけていたのが嘘のようだ。諦めずに赤ちゃんと頑張ってきて良かったと心底思った。

 

私の心を救ってくれた乳頭保護器

 

授乳の時間は幸せだった。昔「授乳中はスマホを見ずに赤ちゃんと目線を合わせて」みたいなのが炎上したことがあったが、そもそも赤ちゃんと目が合うことはなかった。最初の頃は目を瞑っていることが多かったし、大きくなってからも虚空を見つめながらごくごく飲んでいた。いつも(ああ、前の授乳から●時間経ったな)と思って私主導で乳をやっていたら、ある日赤ちゃんが授乳クッションをぽんぽんと叩きながら引っ張って持ってきた時には(意思を表示してる!!!!)とめちゃくちゃびっくりして嬉しくなった。おっぱい飲みたかったんだね〜!といそいそおっぱいを出して飲ませた時のウキウキとした気持ちは忘れたくない。なにか癇癪を起こして泣いている時に「おっぱい飲む?」と聞くとピタリと泣き止んでいつも授乳しているソファの方にハイハイしていくこともあった。噛まれたり歯でしごかれたりしてもう勘弁してくれ〜〜〜と思う日も多かったけど、そんなに好きならいくらでも飲んでてね……という気持ちだった。

 

おっぱいをいつまであげるか、ということに正解はない。親世代では1歳になったら断乳するのが主流だったけど、今はWHOでは2歳まで母乳育児を推奨しているし、専門家も離乳食の進みとお母さんの気持ち次第みたいなことを言っているので、特にいつまでに断乳と期限を設けず、赤ちゃんが自然といらなくなる日を待とうかなと思っていた。1歳を過ぎた頃には授乳は寝る前の1回だけにしていたので、これがいつまで続くかな〜という感じで。

いつも通りお風呂上がりにおっぱいをあげようとしたところ、赤ちゃんは絵本棚のほうに行って遊び始めてしまった。何度も読んでやっと膝に乗っておっぱいを飲み始めたけど、そういえば最近こんなふうに他に興味が移ることが増えたな、とふと思った。前は湯上りは一目散におっぱいだったのに。ああ、もう卒業の時が来てるんだなーと分かった。今週でおっぱいはおしまいにしよう。そう決めたのは自分なのに、残りの数日は授乳の間毎日泣きそうになっていた。おっぱいあげるの楽しかったなぁ。赤ちゃんが飲んでる途中で急に口を離しちゃって、レーザービームのように噴射するおっぱいで赤ちゃんがびしょびしょになっちゃったの面白かったなぁ。おっぱい思ったより大きくならなかったなぁ。もう普通のブラとかめんどくさくて着けられないかもなぁ。卒乳って決めたけどほんとにスパッとやめれるのかな?いろいろなことを考えた。自分の記念用に、最後の授乳をしているところを写真に撮った。乳首はいい感じに隠れた。今日までたくさん飲んで大きくなってくれてありがとう。大きく……なったね!!(号泣)

次の日の夜は少しドキドキしながら、さも今までもこうだったよねという感じですこし温めた牛乳をあげた。一気にごくごく飲んで、普通に寝た。えっ……これで〜完〜か!?とやや拍子抜けしながらも、あっけなく赤ちゃんは卒乳したのであった。ウワ〜!

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卒乳したということは、カフェインレスじゃないコーヒーが飲める!ウキウキしながら妊娠前に通っていたお店で好きなブレンドの豆を焼いてもらい、久しぶりにハンドドリップしたコーヒーは濃すぎて美味しくなかった。そしてカフェインが効きすぎて、なんと一晩中一睡もできなかったのである。そんなことある!?0時に布団に入ってそのまま朝を迎えて6時半に赤ちゃんが起きてきたときはもう絶望だった。日曜日だったので夫が隙間を見ては寝かせてくれようとしたのに、脳がバキバキで全くお昼寝もできず、夜になってやっと争い難い眠気がやってきて20時半に眠った。とほほ。コーヒーが普通に飲める生活になるのはまだ先のようです。